で假面を被つてゐなくちやならないんだ。第一、子供にとつてこれほど惡いことはないだらう。
ノラ 何故です?
ヘルマー 何故つてお前、そんなうそいつはりが入つて來ると、家庭の空氣はすつかり腐つてしまつて毒をもつて來るからな、子供が呼吸する度に罪惡の黴菌を吸ひ込むやうなものだ。
ノラ (夫の後の方へ近よつて行つて)貴方本當にさう思ふんですか?
ヘルマー 辯護士をしてる間に私は幾度もさういふ例を見たよ、子供の時分に惡いことをする奴は、十中八九まで母親が嘘をつくのに原因してるやうだ。
ノラ まあ――母親がですか?
ヘルマー まづ概して母親の方から來るやうだな。けれども無論父親の感化だつて同じことには相違ない。あのクログスタットなんざ、これまで何年となく嘘と僞善の生活で自分の子供を損つて來たんだ。それさ、私が彼奴を道徳的に破産した奴といふのは(兩手を女の方に差出して)そんなわけだから家のノラさんは、もう彼奴の辯護なんか誓つて止めなくちやいけないよ。さあ誓ひの印に握手しようか。おい、どうしたんだ。手をお出し。それでよし/\、それで契約濟だよ。實際私は彼奴と一緒に仕事をすることは不可能だつたんだ。あゝ
前へ
次へ
全147ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング