ないやうにしませう。これが貴方の指輪です。私のも下さい。
ヘルマー これまでもかい?
ノラ それもですよ。
ヘルマー さあ、これ。
ノラ はい、それですつかり濟みました。鍵はこゝへおきます。エレンがすべてこのことは知つてゐます。私よりも精しく知つてゐます。私が立つてから明日クリスチナさんがきて私の荷物を荷造りしてくれませう。あとから送つて貰ふことにしておきます。
ヘルマー あゝもう駄目だ! もう駄目だ! ノラ! お前はもうどんなことがあつても二度と私のことは考へてくれなからうか。
ノラ それは、あなたのことも子供のことも、この家のことも、どうして思ひ出さずにゐられませう。
ヘルマー 手紙をやつてもいゝか。
ノラ いけません。決してなりません。
ヘルマー けれども、お前に送らなくちやならないものが――
ノラ 何もいけません。何もいけません。
ヘルマー もし必要な場合には助けなくちやならないから。
ノラ いけませんてば。見ず知らずの他人からは、どんな物だつて貰ひません。
ヘルマー 私はもうどういつても、お前には見ず知らずの他人より以上のことはできないのか?
ノラ (旅行鞄を取りながら)それ
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