てらつしやることも、私が生涯を共にすることの出來る人のやうぢやありません。恐ろしい騷ぎが通りすぎてしまつて――私にでなくあなたご自身に――もう大丈夫となると――あなたは平氣な顏をしてどこを風が吹いたかといふ風にしていらつしやる。私はまたもとの雲雀や人形になつてしまふ――弱い脆い人形だといふので、これからは前よりも一倍いたはつてやらうとおつしやる(立上り)あなた、この時に私は目が覺めました。この八年といふもの、私は見ず知らずの他人とかうやつて住んでゐて、そしてその人と三人の子供まで作つた。あゝ、そのことを考へると私は耐らなくなつて――自分の身を引き裂きたいやうに思ひます。
ヘルマー (悲しげに)わかつた。私達の間には深い淵が出來たのだ。けれどもノラ、その淵は何とかして埋まらないものだらうか?
ノラ 今では、あなたの妻になれません。
ヘルマー 俺は生れ變つたやうな別の人になる力を持つてゐる。
ノラ さうかも知れません――人形と縁を切つてからはね。
ヘルマー 縁を切る――お前と縁を切る。駄目だ、ノラ、駄目だ、俺はそんなことは考へられない。
ノラ (右手の室に入りながら)仕方がありません、理由
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