はあいつに對して「そのことを世間殘らず公にしろ」とおつしやるだらうと信じてゐました、そして――
ヘルマー けれども、さうして自分の妻の名を恥辱や不名譽の中に曝すといふことは――
ノラ そして、あなたが進み出て、何もかも身に引受けて「罪人は私だ」とおつしやるだらうと信じてゐました。
ヘルマー (ハツとうけながら)ノラ!
ノラ あなたは、私がそんな犧牲は決して受けるはずはない、とおつしやるでせう。勿論受けませんとも。けれども私がさうだからといつて、あなたの決心が固ければ、それをおとめすることがどうして出來ませう。それです。私が見たくもあり、恐ろしくもあつた奇蹟といふのは、そして、そんなことをして頂かないために、私死なうと覺悟してゐたのです。
ヘルマー (立つ)お前のためなら私は晝も夜も喜んで働く――不幸も貧乏もお前のためなら我慢する――けれども、幾ら愛する者のためだつて名譽を犧牲にする男はないよ。
ノラ (靜かに)何百萬といふ女は、それをしてきたのです。
ヘルマー あゝ、お前の考へてることやいふことは駄々ツ子のやうだ。
ノラ さうかも知れません。けれど、あなたの考へていらつしやることやいつ
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