グスタット まあ、さうとして、それでどうするといふのです?
リンデン かうやつて難船した二人が手を握り合ふことが出來たら、どんなものでせう。
クログスタット 何ですと?
リンデン 一本々々の帆柱に縋りついてゐるよりか、それを組合せて筏にした方がいゝ譯でせう。
クログスタット クリスチナ!
リンデン 私がこの町へ來たのは、どういふ譯だと思つていらつしやるの?
クログスタット 何か私のことでも考へて來たのか?
リンデン 何よりも仕事をしなくてはなりますまい? 仕事をしなければ生きて行けませんからね、私の覺えてゐる限りでは、私は一生仕事のし通しですよ。仕事が私にとつては非常な樂しみになつてゐました、ところが、かうして唯一人になつてみますと、自分で自分を當に仕事をすると言ふことは、ちつとも幸福なものぢやありません。ですからねあなた、どうか當にして働く甲斐のある人を私に見付けて下さいな。そんな風にして仕事をさせて下さいな。
クログスタット いや、いや、それは駄目だ。たゞもう女が自分を犧牲にしようといふロマンチックな考へに過ぎないんだ。
リンデン あなたは私をロマンチックな女だと思つてらつしやつて
前へ 次へ
全147ページ中108ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
イプセン ヘンリック の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング