れたのが、あなただといふことを、今日まで知らなかつたのですよ。
クログスタット ふむ、それぢやあ、その方はさうとしておいて、愈々それとわかつてみれば、どうです、私にそれを讓らうとおつしやるのでせうか?
リンデン いゝえ、そんなことはあなたを救ふ道ではないと思ひます。
クログスタット あゝ、その救ひです――私は是非ともさうして頂きたい。
リンデン ですけれども、私も冷靜にことを運べと教へられましたからね、世間とむごい辛い暮しとが私を教育したのですよ。
クログスタット それから、私には人の言葉を滅多に信用するなと世間が教へてくれました。
リンデン ぢや世間はあなたに本當のことを教へましたね。けれども實行すれば信用なさるでせう。
クログスタット といふと――?
リンデン お話によると、あなたは今難船して帆柱に縋りついていらつしやるのですね。
クログスタット さういへる理由が澤山あります。
リンデン さうすれば、私も難船して帆柱に縋つてゐる女でせう? 誰を愛するといふ當もなく。
クログスタット それは、あなたがすき好んでおやんなすつたことだ。
リンデン 好き嫌ひをいふ暇はなかつたのです。
クロ
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