寒さうぢやないか、子供部屋へお出で、ストーヴの上にコーヒーの熱いのがあるわよ。(保姆は左手の室に入る。ノラ、子供の着物を脱がせて、そこら中に投げ出す。イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「ボブちやんさつきの犬こはかつたね」ボブ「でもあの犬食いつきやしなかつたよ」)さう! 大きな犬が家まで追つかけて來たつて? けれどもエンミーに食ひつかなかつたつて? あゝ、犬はね、エンミーのやうないゝ子に食ひつきませんて。いけませんよ、イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールはその包を覗いちや。何だらうねえ、見たかなくつて? (イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールさはつて「何かしら」[#「何かしら」は底本では「何かいら」])あゝ、用心おし、食ひつくよ。(ボブ「遊ばうよ/\」他の子も一緒に)え! お母さんも一緒に遊ぶのかい? 何をして遊ばうね(イ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール「かくれんぼしよう」)隱れんぼ? はいはい隱れんぼをしませう。ボブが先に隱れるのですよ。私が? ぢやあ私が先に隱れますよ。
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(ノラ子供と一緒になつて、その室と右手隣室で笑ひ聲叫び聲の大騷ぎをする。ノラ終にテーブルの下に隱れる。子供達が駈け込んで來て探すけれど見つからぬ。そのうちノラのくす/\笑ふ聲を聞きつけ、テーブルの方へ駈けて來て覆ひの布をもち上げ母を見出す。一しきり大騷ぎ。ノラは子供をこはがらすやうな風で這つて出る。また一しきり大騷ぎ。その間、廊下への扉を叩く聞えてゐたが、誰も氣がつかぬ樣子。やがて扉が半ば開いて、クログスタットが出て來る。しばらく待つてゐると遊び事がまた始まる。)
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クログスタット 奧さん、ご免なさい。
ノラ (押しつけたやうな叫聲で振り向き、半ばとび上る)お! 何かご用ですか?
クログスタット 失禮致しました。外の戸が開いてゐましてね、誰か閉めるのを忘れたのでせう――
ノラ (立ち上りながら)宅は今留守ですよ。
クログスタット 承知してをります。
ノラ ぢやどういふご用でいらつしやつたのです?
クログスタット あなたに少しお話し申すことがありましてね。
ノラ 私に? (子供の方を向いて柔かに)アンナの方へ行つてお出で。ママちよつとご用があるから。あの人が歸つたらまた遊
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