》ふと告《つ》げたりと夢《ゆめ》む。痴人《ちじん》夢《ゆめ》を説《と》く、されど夢《ゆめ》を見《み》て自《みづか》ら悟《さと》るは必《かなら》ずしも痴人《ちじん》にあらざる可《べ》し。余《よ》は現今《げんこん》に於《おい》ても、將《は》た未來《みらい》に於《おい》ても、七福《しちふく》の來《きた》る可《べ》きを信《しん》ずる能《あた》はず。されど余《よ》が現状《げんじやう》を顧《かへり》みれば、既《すで》に七福《しちふく》を得《え》たるにはあらざるかと思《おも》ふ。
一 災害《さいがい》に遇《あ》ふも驚《おどろ》かず。
二 患難《くわんなん》に向《むか》ふとも悲《かなし》まず。
三 貧《まづ》しけれども餓《う》ゑず。
四 老《おい》て勞《らう》を厭《いと》はず。
五 衣《ころも》薄《うす》くも寒《さむ》からず。
六 粗食《そしよく》にも味《あぢ》あり。
七 雨漏《あまも》りにも眠《ねむり》を妨《さまた》げず。
此等《これら》の七福《しちふく》を余《よ》は悉《こと/″\》く灌水《くわんすゐ》の徳《とく》に歸《き》するものなり。
友人《いうじん》松井通昭《まつゐつうせう》氏《し》吾《わが》七福《しちふく》を詠《えい》ずるの歌《うた》を寄《よ》せらる。左《さ》に録《ろく》するもの此《これ》なり。
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  一 災害《さいがい》に遇《あ》ふとも驚《おどろ》かず
災《わざはひ》の起《おこ》れる本《もと》を知《し》る人《ひと》は
     驚《おどろ》きもせずはた悲《かなしみ》もせず
  二 患難《くわんなん》に向《むか》ふとも悲《かなし》まず
憂《う》きつらき重《かさ》ねかさねて今《いま》は世《よ》に
     かゝるものなき身《み》こそ安《やす》けれ
  三 貧《まづ》しけれども飢《う》ゑず
雲《くも》に似《に》たる富《とみ》を何《なに》せんあはれ世《よ》の
     人《ひと》もかくこそあらまほしけれ
  四 老《おい》て勞《らう》を厭《いと》はず
宜《うべ》なりやかくありてこそ人《ひと》として
     世《よ》に生《うまれ》つる甲斐《かひ》はありけれ
  五 衣《ころも》薄《うす》くも寒《さむ》からず
此《この》心《こゝろ》あらずばいかに雪《ゆき》深《ふか》き
     十勝《とかち》の荒野《あらの》住家《すみか》定《さだ》めん
  六 粗食《そしよく》にも味《あぢはひ》あり
早《はや》くより養《やしな》ふものゝあればこそ
     此《この》味《あぢは》ひを君《きみ》は知《し》るらめ
  七 雨《あめ》漏《も》りても眠《ねむり》を妨《さまた》げず
軒端《のきば》もる雨夜《あまよ》の夢《ゆめ》もともすれば
    浮世《うきよ》に通《かよ》ふ事《こと》もあるらむ
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      第三

北海道《ほくかいだう》に移住後《いぢゆうご》、冬時《とうじ》余《よ》の服裝《ふくさう》は、内地《ないち》に在《あ》りし時《とき》と殆《ほと》んど異《こと》ならず。而《しか》して當地《たうち》の寒氣《かんき》を左程《さほど》に感《かん》ぜざるのみならず、凍傷《とうしやう》等《とう》に一度《いちど》も犯《をか》されたる事《こと》あらず。思《おも》ふに此《かく》の如《ごと》きは、數十年來《すうじふねんらい》行《おこな》へる灌水《くわんすゐ》の功徳《くどく》なる可《べ》し。

      第四

余《よ》は現時《げんじ》人《ひと》より羨《うらや》まるゝ程《ほど》の健康《けんかう》を保《たも》ち居《を》れども、壯年《さうねん》の頃《ころ》までは體質《たいしつ》至《いた》つて弱《よわ》く、頭痛《づつう》に惱《なや》まされ、胃《ゐ》を病《や》み、屡《しば/\》風邪《ふうじや》に犯《をか》され、絶《た》えず病《やまひ》の爲《ため》に苦《くるし》めり。且《かつ》性來《せいらい》記憶力《きおくりよく》に乏《とぼ》しき余《よ》は、此等《これら》の病症《びやうしやう》の爲《ため》に益《ます/\》其《その》※[#「冫+咸」、63−2]退《げんたい》するを感《かん》じ、治療法《ちれうはふ》に苦心《くしん》せる時《とき》、偶《たま/\》冷水浴《れいすゐよく》を爲《な》して神《かみ》に祷願《たうぐわん》せば必《かなら》ず功驗《こうけん》ある可《べ》しと告《つ》ぐる人《ひと》あり。其《その》言《げん》に從《したが》ひ、此《これ》を行《おこな》ひしも、冷水浴《れいすゐよく》を永續《えいぞく》する能《あた》はずして中止《ちゆうし》するに至《いた》れり。後《のち》或《ある》書《しよ》に感冐《かんばう》を豫防《よばう》するに冷水浴《れいすゐよく》の非常《ひじやう》に利益《りえき》ある由《よし》を見《み》、再《ふたゝ》び冷水浴《れいすゐよく》を行《
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