て草木を養い、牛馬を肥《こや》すを方針とするのみ。成ると成らざるとは、只天命に在ると信ずるのみ。故に徳島を発する時は、其困苦と労働と粗喰《そしょく》と不自由と不潔とを以て、最下等の生活に当るの手初めとして、永く住み慣れたる旧宅を退き、隣地に在る穀物倉に莚《むしろ》を敷きたるままにて、鍋一つにて、飯も汁も炊き、碗二つにて最も不便極まる生活し一週間を経て、粗末なるを最も快しとして、旅行中にも此れを主張して、粗喰不潔の習慣を養成せり。故に北海道に着して、仮りに札幌区外の山鼻《やまばな》の畑《はた》の内に一戸を築き、最も粗暴なる生活を取り、且つ此迄《これまで》慣れざるの鎌と鍬とを取り、菜大根豆芋|等《とう》を手作《てさく》して喰料《しょくりょう》を補い、一銭にても牧塲費に貯えん事を日夜勤むるのみ。然るに甞《かつ》て成効して所有するの樽川村《たるがわむら》の地には、其年には風損《ふうそん》と霜害《そうがい》とにて半数の収益を※[#「冫+咸」、173−11]じたり。為に悲境を見る事あり、大《おおい》に失望して、更に粗喰と不自由とを以て勤めて其損害の幾分|乎《か》を償《つぐの》わんことを勤めたり。三
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