は》ち術語の罪過にして、世俗の所謂過失及び刑法の所謂犯罪等と混同すべからず。例之《たとへ》ば茲《こゝ》に曲中の人物が数奇不過不幸|惨憺《さんたん》の境界に終ることありと仮定せよ。其《その》境界に迫るまでには其間必ずやソレ相応の動力なかるべからず。語を変へて之を言へば闘争、欝屈《うつくつ》、不平、短気、迷想、剛直、高踏、逆俗等ありて数奇不遇不幸惨憺の境界に誘《いざな》ふに足る源因なかるべからず。罪過は即ち結果に対する源因を言ふなり、末路に対する伏線を言ふなり。此伏線此源因は如何《いか》にして発表せしむべきや。言ふまでもなく主人公其人と客観的の気運《シツクザール》との争ひを写すに在《あ》り。此争ひの為めに主人公知らず/\自然の法則に背反することもあるべし。国家の秩序に抵触することもあるべし。蹉跌《さてつ》苦吟自己の驥足《きそく》を伸ばし能《あた》はざることもあるべし。零落不平素志を達せずして終《つひ》に道徳上世に容《い》れられざる人となることもあるべし。憤懣《ふんまん》短慮終に自己の名誉を墜《おと》すこともあるべし。曾《か》つて之を争ひしが為めにワルレンスタインは悲苦の境界に沈淪《ちんりん
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