して吾々を實在者特に自然的實在者へと導く、客觀的自然、即ち自然科學の對象をなす客觀的實在世界は、かくして、客體の他者性を強化しつつ過去の鞏固なる背景を築き上げる。囘想は自然科學と特に親密なる間柄に立つといふべきである。これに反して將來とそれに對應する構想とは吾々を哲學の方向へ誘導する。自己認識において自己性と形相との位置に立つ客體的形象を、他者性と質料との位置に立つものより引離して固定することによつて、哲學の對象であるイデア・純粹形相が成立つことはすでに前に述べた如くである。これを吾々が今到達し得た理解によつて補足すれば、將來に向ふ構想こそ哲學の母胎といふべきであらう。將來に屬する限り、客體は又それの觀想である構想は、活動の一契機に過ぎぬ。客體面の凹凸高低が、質料と他者性とを代表する形象を切棄てることによつて、平らに均らされ純粹形相の世界が展開されることによつて、活動は觀想に席を讓り將來は純粹の現在の中に融け込み、活動の一契機であつた構想は眞の存在、存在の純なる靜かなる姿、の觀想――直觀――へと進展を遂げる。哲學の對象であるイデアが活動と結び附く時イデアール(理想)の地位を獲得するのも
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