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客體は客體としてもとより單純に主體に屬し單純に意識の内容をなすものではないが、觀念的存在者としては、それは實在者と異なつて遙かに主體に接近した位置に立ち、わづかに半ば獨立性を保つものである。それの存在は主體への乃至主體に對する存在である。すなはち、實在的存在者が獨立の中心として存在しその中心より生き働くとは異なつて、觀念的存在者はかくの如き獨立の中心を缺く。主體が實在者として飽くまでも隱れたる中心を守り自己を他者の所有に委ねるを拒むとは異なつて、客體は觀念的存在者として隱れたる中心と奧行とを有せぬ平面的なる顯はなる存在者である。それの存在は主體の中に取入れられ、主體のもの、主體の自己に屬するものとなつてはじめて安定を見る。いはば宙に浮いた存在である。顯はなるものとしてそれは觀らるべきものである。すなはち主體のそれに對する態度は結局觀想(Kontemplation)でなければならぬ。
客體は觀念的存在者であると同時に他方又他者である。それに對して主體は自己主張をなす。しかしながら實在的他者に對しての場合と異なつてここでは主體の自己主張は、客體の有り方の特異性に應じて、他者を排
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