を媒介する觀念的存在者を全く離れて成立ち得るものの如く考へるは、もとより甚しき謬見であるが、特定の制約の下に立つそれらの共同に、その制約を超越し場合によつては克服して新しき意味と精神とを與へる所に、アガペーの働きは見られるのである。このことはややもすれば、あらゆる差別を撤廢した博愛、あらゆる特殊の人倫關係を離脱して人類一般を眼中に置く人類愛、などの意義にのみ解され易い。しかしながら遠近・廣狹・大小・普遍・特殊等の差別が規定原理として愛の成立を支配する間は、いづれの方向に傾くにせよ、その愛は依然エロースの性格を擔ふのである。人と人との共同はもとより人間性の地盤の上に行はれる。しかしながらその共同の特徴が人間性を唯一乃至最高の規定原理とするといふことに盡きるならば、それは結局人間的主體の自己主張自己實現の一形態であるに過ぎぬであらう。之に反してアガペーの第一の特徴はむしろ媒介するあらゆる規定原理を超越乃至克服して無制約的に他者を原意とする點に存するのである(二)。主體の側よりいへば、それによつて成就さるべき何事かがあるのでもなく、又それを促がす何事かの必要があるのでもない。他者の側よりいへ
前へ 次へ
全280ページ中181ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
波多野 精一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング