それの基本的特徴である。この愛が志す所を成遂げ本來の性格を徹底せしめたならば、自己は無に歸して他者のみ有る生の共同が成立つであらう。このことは自己實現を本質とする現實の人間的主體にとつては勿論不可能の事である。現實の人倫關係は原則的にはエロースとして成立つてをり又しかせねばならぬのである。アガペーの本質には超越性がはじめより宿つてゐる。しからばそれはエロースの如く本來の不可能事を要求するだけのものであらうか。或は却つてこれこそ眞實の愛であり、エロースはこれによつて活かされることによつて、否むしろこれによつて克服され止揚されこれのうちに死し葬り入れられることによつて、はじめて愛として甦へり自と他との共同として成立ち得るのではなからうか。
 吾々は先づ少しく立入つてアガペーの諸特徴を考察しよう。人間の現實的生は自然的生の土臺に築かれたる文化的生としてのみ成立つ故、エロースの性格を全く離脱したる純粹の單獨のアガペーといふが如きものはもとより現實的には見るを得ぬ事柄であるが、後者の出現は前者に一定の特色と傾向とを與へることによつてそれと知られる。人と人との愛を、あらゆる人倫關係を離れ從つてそれ
前へ 次へ
全280ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
波多野 精一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング