れた。ここに至るまでの徑路は決して簡單ではなかつたであらうし、又研究上決して容易なる課題ではないであらうが、その發展の重要なる契機としては、死後の生の主體と生前の生の主體との同一性の觀念の成立が、特に擧げらるべきであらう。これは一時學界を風靡したアニミズムが、又それに從つてローデが、原始人共通の觀念として説いた「魂ひ」(プシュケー)の觀念に當るものである。この場合生者の魂ひは單に死者の魂ひの後方への延長に過ぎぬ觀があり、殊にオルフィク教においては、魂ひは生れる前すでに天上に存在した神的存在者が人間の身體に假りの宿りを求めたものに過ぎぬ故、關心の中心に立つたのは、今現に生きてゐる人間的主體の運命といふよりは、むしろ死後はじめて自己本來の天地に到着乃至歸還するであらう外來的寄留者、場合によつては、現實の生と沒交渉なる一種の神話的存在者としての魂ひの運命に外ならなかつた。プラトンがかかる思想の影響を受けながらなほ哲學の傳統の上に立ち、關心を今現に生きる生殊に文化的生の主體としての魂ひに集中したことは意味深き出來事である。そのことによつて、今現に生きる人間的主體が自己の運命としての靈魂の不死性
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