品に過ぎず、それの存在の意義は哲學的よりはむしろ文學的のものであつた。メンデルスゾーンによつて「一切の粉碎者」と命名され、又かれによつて代表された當時流行の靈魂不死説を事實粉碎した、カントがそれに代へて「實踐理性の要請」の名のもとに提案した新しき靈魂の不死性の證明について見るも、強き深き信念や世界觀を背景として持つてゐるにも拘らず、證明そのものは甚しく粗笨である。「純粹理性批判」において「靈魂」(Seele)の形而上學的概念を粉碎し又眞の實在者の超時間性を力強く主張したその同じ人が、靈魂の無終極的――從つて勿論時間的――存續を「要請」(Postulat)の名のもとに、即ちかれ自らの説明によれば、根據は實踐的法則に存するもそれ自らは依然理論的なる命題として、よくもかく無造作に説き得たと、人は驚かずにはゐられぬであらう。
死そのものがすでに客觀的認識の對象として取扱ひ得ぬ事柄である以上、不死性も亦自己理解においてはじめて開示される事柄、信念としてのみ成立つ事柄である。これを理論的に根據づけ得るが如く取扱ふのは、すでに研究の發足において態度を誤つてゐる。吾々の研究はその自己理解その信念その
前へ
次へ
全280ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
波多野 精一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング