「靈魂」も「不死性」もともにすでに原始民族の間にも存する通俗的觀念であり、學問的論究乃至原理的省察の立場に取上げられた後においても、學者や思想家の立場の相違以外なほ通俗的意義の影響によつて極めて複雜不鮮明なる事態が釀し出されたにも由るが、他方又特に、時間性の理解を可能ならしめる研究態度に關する根本的自覺の不足乃至はその理解そのものの薄弱さに由る所が少くない。古來多くの偉大なる哲學者たちが好んで取扱つた題目でありながら、靈魂不死説ほど説得力に乏しき教説は他に稀れであらう。試みに歴史上最も代表的意義をもつた二三について見よう。プラトンの「パイドン」(〔Phaido_n〕)を繙くならば、論述の目的が靈魂不死説の證明に存するに拘らず、この證明は、プラトン自ら告白を惜まなかつた如く、理論的に甚だ薄弱であり、それの意義と價値とはむしろ材料又は論據として繰出されてゐる諸教説殊にイデアの説に存するに人は驚くであらう。メンデルスゾーン(Mendelssohn)の同名の著書は、名聲の高かつたにも似ず、又外形上は輪郭や登場人物をプラトンより借り來つたに拘らず、啓蒙時代の流行思想を内容とする飜案的乃至模倣的作
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