く、自然的生において主體は實在的他者と直接的關係交渉において立つ。その場合吾々は二つの面又は契機を區別し得よう。第一は他者との交りにおける主體そのものの内部的構造であり、時間性はそれの性格をなす。第二は他者へと向ふ限りにおける主體の姿、即ち他者への存在としてのそれの基本的姿である。これが即ち空間性である。簡單にいへば、内に向ふ主體の姿が時間性、外に向ふ姿が空間性である。かくの如く空間性は根源的生の對他的對外的性格をなすものとして外面性相對性の最も基本的根源的なるものである。
それ故、自然的生が或る程度までそれ本來の權利を囘復することによつて客觀的實在世界が成立つに至つて、空間がそれの基本的形相をなすは當然といふべきであらう。客體の世界はそれの背後の主體的存在者に歸屬せしめられることによつて實在性を獲得する。實在者相互の關係は空間的でなければならぬ。實體は空間的存在を保ち、それの相互作用としての因果關係も空間の中において行はれる。空間性は客觀的實在性の最も基本的規定となる。空間性は根源的體驗まで遡れば時間性に對して決して優先權を有するものではない。主體の生の内部的構造より切離されたる單なる對他性對外性の形式として、それは時間性と比べてむしろ抽象的派生的であるを免れぬ。しかしながら客體の固定ついでは實在化が行はれるとともに、それは優先權を主張するに至る。主體の内部的構造を示唆するやうな規定を排除しながら、しかも飽くまでも主體性を保存しようとするためには、これが殘されたる途なのである。すなはち客觀的實在世界の空間性はそれの實在性に基づく。それが空間的存在を保つのはそれが主體として表象されるより來ることなのである。主體と實在的他者性の間柄に立つことによつて客體は主體性を獲得し、そのことによつて更に空間性を獲得する。
かくの如くにして自然的生の支配の及ぶ限り空間性の支配も亦及ぶ。觀念的存在の成立とともに類を異にする他者性が現はれるに相違ないが、そこでさへ空間性の覊絆はなほ纒はつてゐる。純粹形相純粹客體の世界乃至は永遠的世界の具體的譬喩的表現が空間性の像を借りねばならぬのはここより來る(一)。觀念的世界そのものがすでに「上」の世界なのである。空間性は根源的には自然的生における實在的他者性であり、觀念的存在の成立とともにこの他者性は超越されるが、自己實現の新たなる領域において
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