」
瞼を押へたガーゼを除《と》つて私を見た。まだ幾分かは見えるのであらう。私はそこで初めて彼女のただれた眼を見たのである。
私が初めて彼女に会つたのは二年前である。私はまだここへ入院して間もなかつた。その最初の印象は烙印のやうに黒ずんだ焼痕を残してゐる。驚愕と悲嘆とに傷ついたその頃の私の神経は、深淵の底に坐つた少女の美しさに打たれたのだ。
すすけた羽目と破けた障子がある。黝ずんだ天井は低く垂れ下つて、糸の露《あら》はな畳の上に彼女は坐つてゐた。彼女と並んで六人の女の子が坐り、彼女等はみな各々《めいめい》が小さな罨法鍋を前にしてゐた。C子の眼はこの頃から既に光りを失ひ始めてゐたのである。彼女等は背を丸くして……
[#地から1字上げ](未完)
底本:「日本の名随筆28 病」作品社
1985(昭和60)年2月25日第1刷発行
1996(平成8)年2月29日第16刷発行
底本の親本:「定本・北條民雄全集 下巻」東京創元社
1980(昭和55)年12月発行
入力:遠藤貴
校正:今井忠夫
2001年1月22日公開
2006年4月5日修正
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