ょうどよかったわね、尾田さん」
看護婦がそう引き取って尾田を見た。
「ええ」
「病室の方、用意できましたの?」
「ああ、すっかりできました」
と佐柄木が応えると、看護婦は尾田に、
「この方佐柄木さん、あなたがはいる病室の附添いさんですの。解らないことあったら、この方にお訊きなさいね」
と言って尾田の荷物をぶら提《さ》げ、
「では佐柄木さん、よろしくお願いしますわ」
と言い残して出て行ってしまった。
「僕尾田高雄です、よろしく――」
と挨拶すると、
「ええ、もう前から存じております。事務所の方から通知がありましたものですから」
そして、
「まだ大変お軽いようですね、なあに癩病恐れる必要ありませんよ。ははは、ではこちらへいらしてください」
と廊下の方へ歩き出した。
木立を透して寮舎や病棟の電燈が見えた。もう十時近い時刻であろう。尾田はさっきから松林の中に佇立《ちょりつ》してそれらの灯《ひ》を眺めていた。悲しいのか不安なのか恐ろしいのか、彼自身でも識別できぬ異常な心の状態だった。佐柄木に連れられて初めてはいった重病室の光景がぐるぐると頭の中を廻転して、鼻の潰れた男や口
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