槌《せえづち》を貸しねえ、打毀《ぶっこわ》して見せるから」
恒「面白い、毀してみろ」
と恒太郎が腹立紛れに才槌《さいづち》を持って来て、長二の前へ投《ほう》り出したから、お政は心配して、
政「あれまアおよしよ、酔ってるから堪忍おしよ」
恒「酔ってるかア知らねえが、余《あんま》りだ、手前《てまえ》の腕が曲るから毀してみろ」
兼「若《わけ》え親方……腹も立とうが姉《あね》さんのいう通り、酔ってるのだから我慢しておくんなせえ、不断|此様《こん》な人じゃアねえから、私《わっち》が連れて帰って明日《あした》詫に来ます……兄い更けねえうちに帰《けえ》ろう」
と長二の手を取るを振払いまして、
長「何ヨしやがる、己《おら》ア無宿《やどなし》だ、帰《けえ》る所《とこ》アねえ」
と云いながら才※[#「てへん+二点しんにょうの「追」」、第4水準2−13−38]を取って立上り、恒太郎の顔を見て、
長「今打き毀して見せるから其方《そっち》へ退《ど》いていなせい」
と才槌を提《ひっさ》げて、蹌《よろ》めく足を蹈《ふ》みしめ、棚の側へ摺寄って行灯《あんどう》の蔭になるや否や、コツン/\と手疾《てばや》く二槌《ふたつち》ばかり当てると、忽ち釘締《くぎじめ》の留は放れて、遠州透はばら/″\になって四辺《あたり》へ飛散りました。
二十三
言葉の行掛《ゆきがゝり》から彼《あ》アはいうものゝよもやと思った長二が、遠慮もなく清兵衛の丹誠を尽した棚を打毀《ぶちこわ》しました。且《かつ》二つや三つ擲《なぐ》ったって毀れる筈のない棚がばら/\に毀れたのに、居合わす人々は驚きました。中にも恒太郎は長二が余りの無作法に赫《かっ》と怒《いか》って、突然《いきなり》長二の髻《たぶさ》を掴んで仰向に引倒し、拳骨で長二の頭を五つ六《む》つ続けさまに打擲《ぶんなぐ》りましたが、少しもこたえない様子で、長二が黙って打《ぶ》たれて居りますから、恒太郎は燥立《いらだ》ちて、側に落ちている才槌を取って打擲ろうと致しますに、お政が驚いて其の手に縋《すが》りついて、
政「あれまア危ないからおよしよ、怪我をさせては悪いからサ兼松……速く留めておくれ」
兼「まアお待ちなせえ、其様《そん》な物で擲っちア大変だ」
と止めるのを恒太郎は振払いまして。
恒「なに此の野郎、ふざけて居やがる、此の才槌《せ
前へ
次へ
全83ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング