えから」
 清「大きいもんか」
 兼「私《わっち》より少し大きい、たしか今年廿九だから」
 清「何を云うのかさっぱり分らねえ、己《おら》ア道具の事を聞くのだ」
 兼「ムヽ道具ですか道具は悉皆《すっかり》家具《やぐ》蒲団まで私《わっち》にくれて行ったんです」
 清「まだ分らねえ……棚か箱か」
 兼「へい、店《たな》は貸店になっちまッたんです」
 清「何だと菓子棚だ、ウム菓子箪笥のことか、それが何うしたんだと」
 兼「何うしたんか訳が分らねえから聞きに来たんだが、親方へ談《はなし》なしだとねえ」
 清「そりゃア長二が為《す》る事だものを、一々|己《おれ》に相談する事アねえ」
 兼「だッて、それじゃア済まねえ、己《おら》ア其様《そん》な人とア思わなかった……情《なさけ》ねえ人だなア」
 清「手前《てめえ》何か其の仕事の事で長二と喧嘩でもしたのか」
 兼「いゝえ、長《なげ》え間|助《すけ》に行ってるが、喧嘩どころか大きい声をして呼んだ事もねえ……己《おれ》を可愛がって、近所の人が本当の兄弟《きょうでえ》でも彼《あ》アは出来ねえと感心しているくれえだのに、己が六間堀へ行ってる留守に黙って脱出《ぬけだ》したんだから、不思議でならねえ」
 清「何も不思議アねえ、手前《てめえ》の技《うで》が鈍いから脱出したんだ、長二は手前に何も云わねいのか」
 兼「何とも云いませんので」
 清「はてな、彼様《あんな》に親切な長二が教えねえ事アねえ筈だが……何か仔細《しせい》のある事だ」
 と腕組をして暫らく思案をいたし、
 清「些《すこ》し心当りがあるから明日《あした》でも己が尋ねてみよう」
 兼「左様《そう》です、何《なん》か深いわけがあるんです、心当りがあるんなら何も年寄の親方が行くにゃア及びません、私《わっち》が尋ねましょう」
 清「手前《てめえ》じゃア分らねえ、己が聞いてみるから手前今夜|帰《けえ》ったら、長二に明日《あす》仕事の隙《すき》を見て一寸《ちょっと》来てくれろと云ってくんな」
 兼「親方何を云うんです、家《うち》に居もしねえ長兄に来てくれろとア」
 清「何処《どこ》へ行ったんだ」
 兼「何処かへ身を隠したから心配《しんぺい》しているんだ」
 清「何だと、長二が身を隠したと、えゝ、そんなら何故速くそう云わねえんだ」
 兼「先刻《さっき》から云ってるんです」
 清「先刻からの話ア釘
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