あ》いていて、暑さ寒さに痛んで困るのよ」
婆「へいー左様《そう》かねえ、孩児《ねゝっこ》の時そんな疵うでかしちゃアおっ死《ち》んでしまうだねえ、どうして癒ったかねえ」
長「どうして癒ったどころか、自分に見えねえから此様《こん》な疵のあるのも知らなかったのさ、九歳《こゝのつ》の夏のことだっけ、河へ泳ぎに行くと、友達が手前《てめえ》の背中にア穴が開いてると云って馬鹿にしやがったので、初めて疵のあるのを知ったのよ、それから宅《うち》へ帰《けえ》ってお母《ふくろ》に、何うして此様な穴があるのだ、友達が馬鹿にしていけねえから何うかしてくれろと無理をいうと、お母が涙ぐんでノ、その疵の事を云われると胸が痛くなるから云ってくれるな、他《ひと》に其の疵を見せめえと思って裸体《はだか》で外へ出したことのねえに、何故泳ぎに行ったのだと云って泣くから、己もそれっきりにしておいたから、到頭分らずじまいになってしまったのよ」
という話を聞きながら、婆さんは長二の顔をしげ/\と見詰めておりました。
八
婆「はてね……お前《めえ》さんの母様《かゝさま》というは江戸者かねえ」
長「何故だえ」
婆「些《ち》と思い出した事があるからねえ」
長「フム、己の親は江戸者じゃアねえが、何処《どこ》の田舎だか己《おら》ア知らねえ、何でも己《おれ》が五歳《いつゝ》の時田舎から出て、神田の三河町へ荒物|店《みせ》を出すと間もなく、寛政九年の二月だと聞いているが、其の時の火事に全焼《まるやけ》になって、其の暮に父《とっ》さんが死んだから、お母《ふくろ》が貧乏の中で丹誠して、己が十歳《とお》になるまで育ってくれたから、職を覚えてお母に安心させようと思って、清兵衞親方という指物師の弟子になったのだ」
婆「左様《そう》かねえ、それじゃア若《も》しかお前《めえ》さんの母様はおさなさんと云わねいかねえ」
長「あゝ左様だ、おさなと云ったよ」
婆「父様《とっさま》はえ」
長「父《とっ》さんは長左衛門《ちょうざえもん》さ」
婆「アレエ魂消《たまげ》たねえ、お前《めえ》さん……長左衛門殿の拾児《ひろいッこ》の二助どんけえ」
長「何だと己が拾児だと、何ういうわけでお前《めえ》そんな事を」
婆「知らなくってねえ、此の土地の棄児《すてご》だものを」
長「そんなら己は此の湯河原へ棄てられた者だと
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