が礼記の講釈で復讐《ふくしゅう》という折紙を付けられました珍らしい裁判で、一層名高くなったので、清兵衞達の喜びはいうまでもなく、坂倉屋助七も大《おおき》に喜び、或日筒井侯のお邸《やしき》へ伺いますと、殿様が先日腰元島路の申した口上もあれば、今は職人でない長二郎ゆえ、島路を彼方《かれかた》へ遣わしては如何《いかゞ》との仰せに助七は願うところと速《すみや》かに媒酌を設け、龜甲屋方へ婚姻の儀を申入れました処、長二郎も喜んで承知いたしたので、文政五|午年《うまどし》三月|一日《いちにち》に婚礼を執行《とりおこな》い、夫婦|睦《むつま》じく豊かに相暮しましたが、夫婦の間に子が出来ませんので、養子を致して、長二郎の半之助は根岸へ隠居して、弘化《こうか》二|巳年《みどし》の九月|二日《ふつか》に五十三歳で死去いたしました。墓は孝徳院長譽義秀居士《こうとくいんちょうよぎしゅうこじ》と題して、谷中の天竜寺に残ってございます。



底本:「圓朝全集 巻の九」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
   1964(昭和39)年2月10日発行
底本の親本:「圓朝全集 巻の九」春陽堂
   1927(昭和2)年8月12日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号は原則としてそのまま用いました。同の字点「々」やカタカナ繰り返し記号「ヽ」と同様に用いられている二の字点(漢数字の「二」を一筆書きにしたような形の繰り返し記号)は、「々」「ヽ」にかえました。
また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「彼《あ》の」と「彼《あの》」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。
また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:小林 繁雄
校正:かとうかおり
2000年10月31日
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