う始末でございますから、お島は長二を美《い》い男とは思いませんが、予《かね》て父助七から長二の行いの他《ひと》に異《かわ》っていることを聞いて居ります上に、今また年に似合わぬ善《よ》い心掛なのを聞いて深く心に感じ、これにひきかえて兄の助藏が放蕩に金銭を使い捨てるに思い較べて、窃《ひそ》かに恥じましたから、ちょっと赤面致したので、また長二もお島を見て別に美しいとも思いませんが、是まで貧民に金銭を施すのを、職人の分際で余計な事だ、馬鹿々々しいから止せと留める者は幾許《いくら》もありましたが、褒める人は一人もありませんでしたに、今十七か十八のお嬢さんが褒めたのでありますから、長二は又お島が褒めた心に感心を致して、其の顔を見たのでございます。助七はそれらの事に毫《すこし》も心づかず、
「親方の施し道楽は至極結構だが、女房を持たないと活計向《くらしむき》に損がありますから、早く良《い》いのをお貰いなさい」
長「そりゃア知っていますが、女という奴ア吝《けち》なもんで、お嬢さんのように施しを褒めてくれる女はございませんから持たないんです」
助「フム左様さ、女には教えがないから、仁だの義だのという事は分らないのは道理《もっとも》だ、此の娘なぞは良《よ》い所へ嫁に遣ろうと思って、師匠を家《うち》へ呼んで、読書《よみかき》から諸芸を仕込んだのだから、兎も角も理非の弁別がつくようになったんだが、随分金がかゝるから大抵の家では女にまでは行届《ゆきとゞ》きません、それに女という奴は嫁入りという大物入がありますからなア、物入と云やア娘も其の内何処かへ嫁に遣らなければなりませんが、其の時の箪笥《たんす》三重《みかさね》と用箪笥を親方に願いたい、何卒《どうか》心懸けて木の良《い》いのを見付けてください」
長「畏《かしこ》まりましたが、先達《せんだっ》て職人の兼という奴が、鑿《のみ》で足の拇指《おやゆび》を突切《つッき》った傷が破傷風《はしょうふう》にでもなりそうで、甚《ひど》く痛むと云いますから、相州の湯河原へ湯治にやろうと思いますが、病人を一人遣る訳にもいきませんから、私《わたくし》も幼《ちい》さい時怪我をした背中の旧傷《ふるきず》が暑さ寒さに悩みますので、一緒に行って序《つい》でに湯治をして来ようと思いますので、お急ぎではどうも」
助「いゝや今が今というのではありません、行儀を覚えさ
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