貴方のお気に障れば、其の時はどんなに胆《きも》がいれる事があっても、後《あと》でまた気の静まるときに意見をすれば聴入れてくれる人でござりますから、何うか若し参りましたらば、何卒《どうぞ》あんた逆らわずに柳に受けてお置き下さるようにお願《ねげ》え申してえもので」
瀧「はい、そうで御座いますか、困りますねえどうも、まア貴方《あんた》には初めてお目にかゝりましたが、茂之助さんは前橋の六斎の市のたんびにお出でなすったが、お前さんという立派なお内儀《かみさん》や子供のある事は存じません、当人も隠して女房はないから斯うもしてやると仰しゃって下さるから、頼り少い身体で、そんならばと云って来て見ると、子供|衆《しゅ》もあり、お内儀さんも在《あ》って、手前《てめえ》は家《うち》に置かれないからと栄町へ裏店《うらだな》同様な所《とこ》へ世帯《しょたい》を持たして、何だか雇い婆《ばゞあ》とも妾ともつかぬ様な仕合《しあわせ》で、私も詰らねえから、何しろ身を固めるには夫を持たなければ心細いからと思いまして、それで浮気をしたてえ訳じゃアありませんが、今の松さんが前橋へ来なすったが、私も東京《とうけい》に居た時分か
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