事でござります」
瀧「はいそれはまア何よりの品を有難うございます、さアずっと此方《こちら》へお出でなさいまし、おや子供|衆《しゅ》を負《おん》ぶで、其処は蚊が刺しますから団扇をお遣いなすって」
くの「はい、団扇は持って居ります、私《わしゃ》ア貴方《あんた》に少しお目にかゝってお願い申したいと存じまして」
と是からおくのが話し出します事は明日《みょうにち》。
十六
くの「家《うち》へはちょっくら買物に往《い》くって嘘を吐《つ》いて参《めえ》りましたが、私《わし》が良人《うちのひと》の茂之助もまア御縁があって、あんたを前橋から呼ばって栄町に世帯《しょたい》を持たせて置いた事は聞いて居ましたけれども、男の働きで当前《あたりまえ》のことゝ思《おめ》えましても、年寄てえ者は取越苦労して、私にあんた義理もあるだから、やかましく云いますし、やかましく云えば意故地《いこじ》になって家へも帰んねえようにする彼《あ》れが気象でござりまして、あんな我儘な気象、あんたも知っての通り誠に心配《しんぺえ》して、まア縁が切れても男の未練で、ひょっとして貴方《あんた》のとけえでも来て、詰らねえ事
前へ
次へ
全281ページ中54ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング