布「じゃア内証で往って来るよ」
 何心なく頑是なしに走って参り、織場へ往って見ますると、おくのは夜は灯火《あかり》を点《つ》けて夜業《よなべ》を為《し》ようと思い、襷掛《たすきが》けに成って居る後《うしろ》へ参り、
布「お母さん/\」
くの「何んだよ、昨日《きのう》も学校から帰ると日暮方まで遊んでいたが、余《あんま》り表へ出ねえようにしな、何んだよ」
布「あのね、お父さんが来たよ」
くの「え……何処へ」
布「あのね内証《ないしょう》でお母さんに逢って詫言をしたい、辛抱人に成ったてえが、本当に成ったかも知れないよ、内証でお母さんに逢いたいって坊に斯様《こんな》にお銭をくれたよ、お銭をくれるくらいだから辛抱人に成ったかも知れないから、お前逢ってお遣りな」
くの「逢いたいってお祖父さんがに知れると、でけえ小言が出るが……決して云うじゃアねえよ、黙って居なよ、然うして少し此の機を気イ附けて居ろ、蚊遣火《くすべ》が仕掛けて有るから」
 と夫婦の情で逢いたいから、直《すぐ》に飛出して往《い》こうかとは思ったが、一歳《ひとつ》になるお定《さだ》の顔を見せたいと思いまして、これを抱起して飛んで参り
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