郎と云うお瀧の情夫《いろおとこ》で、其の時分は未だ髷が有りました。細かい縞の足利織では有りますが、一寸《ちょっと》気の利いた糸入の単物《ひとえもの》に、紺献上の帯を締め、表附《おもてつき》のノメリの駒下駄を穿《は》き、手拭を一寸頭の上へ載せ、垣根《くね》の処から這入って往《い》く後姿《うしろすがた》を見て、
茂「むう松五郎か、来たな汝《うぬ》」
 と息を屏《こら》して中へ這入る様子を見て居りますると、ガラ/″\と上総戸《かずさど》を開けると、土間口へお瀧が出迎い、
たき「お這入りなさいよ」
 と坐敷へ上げました。お瀧は情夫に逢うのだから嬉しい、夜《よ》に入《い》れば少し寒うございますなれども五月|上旬《はじめ》と云うので、南部の藍《あい》の子持縞《こもちじま》の袷《あわせ》を素《す》で着て、頭は達磨返《だるまがえし》と云う結び髪に、*平《ひら》との金簪《きんかん》を差し、斑紋《ばらふ》の斑《ふ》の切れた鬢櫛《びんぐし》を横の方へ差し、年齢《とし》は廿一でクッキリと灰汁抜《あくぬけ》の為《し》た美《よ》い女で、
たき「何うしたえ、私の手紙が往違《いきちが》いにでもなりやアしないかと思って
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