勧め酔わして置いて寝かしてから彼奴《あいつ》の方へ往く了簡だろう、と思いましたから、成《なる》たけ酒を飲まぬようにして、お膳の隅へあけて、お瀧に盃を差し、女を酔わして堕落させようと思い、頻《しき》りに酒を勧める。其の心の中《うち》の戦《たゝかい》は実に[#「実に」は底本では「実た」]修羅道地獄の境界《きょうがい》で、三人で酒を飲んで居りましたが、松五郎は調子の好《い》い男で、
松「何うも大きに酩酊しました、もうお暇をしましょう、お暇をしましょう」
茂「まア宜《い》いじゃア無いか、今夜は泊って往《い》き給え、是から福井町へ帰れば、貸座敷と云っても余《あんま》り好《い》いのは無いが色を売る処、殊《こと》に君は独身者《ひとりもの》だから遊女にでも引ッかゝると詰らんよ、一つ蚊帳《かや》の中へ這入って三人|混雑《ごった》にお泊りよ」
瀧「お泊んなさいよ、お前さんは独身《ひとりみ》だから余程《よほど》遊ぶてえ事を聞いたが、詰らないお銭《あし》を費《つか》って損が立つ計《ばか》りではなく、第一身体でも悪くするといけないし、それに余程《よっぽど》もう遅いよ、慥《たし》か一時でしょう」
茂「だからさ、泊
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