出して仕舞って、何うかおくのさんを可愛がって上げなんし、宜くねえよ」
茂「誠に有難う」
治「然《しか》し僕が云ったと云ってはなりません」
茂「いや御親切誠に有難う」
と真実な治平の言葉に感じて宅へ帰りました。
五
其の翌日は丁度所の休み日で、
茂「今日は松五郎を呼んで一|盃《ぱい》飲みたい」
と手紙を以て松五郎を呼びに遣ると、早速まいりました。
茂「何ぞ旨い肴は無いか」
と云うので是から三人で酒を飲み合って居る中《うち》に、茂之助が気を付けて見ると、何うも二人の様子が訝《おか》しい、気が付かずに居《お》れば然《そ》うでもないが、疑心を起して見ると、すること成すこと訝しく見えます。ちょいと見る眼遣《めづか》いの時に、眼の球が同じ横に往《ゆ》きながらも、松五郎の方《かた》を見る時は上の方《ほう》へ往くが、僕の方を見る時は、下眼《さがりめ》で、何んだか軽蔑して見るような眼つきだ、鰌《どじょう》の骨抜を皿へとりわけるにも、僕の方には玉子の掛らない処を探して、松五郎の方へばかり沢山玉子の掛った処が往くと、一々気になって来ます。斯う遣って僕にばかり盃を差すのは、僕に酒を
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