来ます。すると、誰でも遊びに来る時などには、宅《うち》に金瓶が八つに、ダイヤモンドが八十六も有るように大法螺《おおぼら》を吹きます。
茂「今度は何千反持って来て、何処《どこ》へ何百反置いて、此処へ何百反渡して金を何百円持って帰る」
と云うように、大業《おおぎょう》な事を云うから、小瀧も此の茂之助を金の有る人と思いますと、容貌《こがら》も余り悪くはなし、年齢《とし》は三十三で温和《おとなし》やかな人ゆえ、此の人に縋《すが》り付けば私の身の上も何うか成るだろうと云うと、此方《こちら》は素《もと》より東京の芸妓《げいしゃ》と云うのを当込んで掛りましたのだから、ついした事から深く成り、現《うつゝ》を抜かして寝泊りを致しました事も度々《たび/\》なれども、茂之助の女房おくのは、苟且《かりそめ》にもいやな顔を為《し》ません。幾ら夫につらくされても更に気にも止めず、却《かえ》って夫の不始末をお父《とっ》さんに取成し、
くの「私はもとは此の家《うち》へ機織に雇われた奉公人を、斯《こ》うやって若旦那に添わして下さるとは冥加至極のこと、お父さんのお鑑識《めがね》にかない此の家の女房に成り子供まで出来ましたから、若旦那さまに幾ら辛くされようとも、旧《もと》の身分を考えれば何も云う処はございません、それは男の楽しみゆえ一人や二人|情婦《おんな》の有るは当前《あたりまえ》」
と諦めて居るを宜《い》い事にして、茂之助は些《ちっ》とも家《うち》へ帰って来ません。終《しまい》には増長して家の金を持出して遊びに出て、小瀧に入上《いれあげ》て仕舞いますので、追々借財が出来ましたが、親父は八ヶましいから女房のおくのが内々で亭主の借金の尻を償《つぐの》って置きます。此のおくのは、年齢《とし》二十七だが感心なもので、亭主の借金をぽつ/\内証で返す積りで働きまするのだが、夜業《よなべ》を掛けても、一反半織るのは、余程上手なものでなければ出来ませんのを、おくのは一生懸命に夜業を掛けて、毎日二反ずつ織上げませんと、亭主の拵えた借金が払えないと精出して遣《や》って居ります。然《そ》ういう結構な女房を持って居ながら、茂之助は心得違いにも、とうとう多分の金を以《もっ》て彼《か》の小瀧を身請いたしました、尤《もっと》も其の頃の事ゆえ、身請と云っても旅の芸妓《げいしゃ》は廉《やす》かったもので、こま/\した借金を残らず
前へ
次へ
全141ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング