らねえ馴染のお方で、恩になった事もあり、それに少しハイ約束をした事もありました、それが縁でちょく/\遊びに来たのを茂之助さんが嫉妬《やきもち》をやいて、むずかしい事を言ったから話も破《ば》れて仕舞って、まア示談《はなしあい》で離縁になったのですよ、それから斯うやって夫婦になって居ると、未練らしく此の間も来て酷《ひど》い事を言って、私の髻《たぶさ》を把《と》って引摺り倒し、散々に殴《ぶ》ちましたから、私も口惜《くやし》いから了簡しませんでしたが、それは兎も角もまた茂之助さんが来て種々《いろん》な事をいうのをハイ/\と柳に受けて居《お》れば、また増長して手出しをする、そうなれば良人《うちのひと》も腹を立てゝ茂之助さんを手込《てごみ》に打擲しまいものでもない……まアあるかないか知れませんが、他人《ひと》の家《うち》へ来て、縁の切れた人が刃物三昧でもすれば聴きません、松さんも元は武士《さむらい》だから黙っては居りません、お互いに男同士で切り合って、松さんがまた茂之助さんに傷でも付けまいものでも有りませんから、それだけはお断り申して置きます」
十七
くの「はい、それが心配《しんぺえ》でござります、そんだから苦労でござりますから、斯うやって此処《こけ》え参《めえ》ったのです、どうか軽躁《かるはずみ》な事をして参《めえ》るような事がござりましたら、松五郎さんも腹も立ちましょうけれども私《わし》や年寄子供に免じて下すって、私らを可愛相と思って、そこだけ御勘弁なすって……時経ってまた意見を致す事もござりますから、何うぞお願で、お瀧さん」
と田舎|気質《かたぎ》の正直に手を突き、涙ぐんで頼むので、流石の悪婦も気の毒に思い、
瀧「まア私の一了簡にも往《ゆ》きませんから、福井町の店受《たなうけ》の処《とこ》へ往って松さんが遊んで居ますから、私は是から行って呼んで来ましょうから、松さんにお前さんが逢って頼んで下さい、ね、そうして相談ずくに致しましょう、私も気味が悪い、松さんは留守勝だから無闇な事をして刃物三昧でもされると困りますから」
くの「私《わたし》もお目にかゝって是非お頼み申しやすが、貴方《あんた》からも能くお話なすって……年寄も居りますが、私《わし》も機織奉公に参《めえ》りまして、それが縁になって嫁《かたづ》きましたのだから、誠に私《わし》が中へ這入《へえ》って
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