でもハア言い出せば、貴方だっても、まア松五郎さんでも黙っては居なさらねえ、縁の切れた所《とけ》え来て、たわいもねえ事をいえば合点しねえぞと云えば、売言葉に買言葉、何《ど》んなえらい事になるかも知れねえとまア、女の狭《せめ》え心で誠に案じることでござります、年寄子供を扣《ひか》えて軽躁《かるはずみ》な事がなければ宜《よ》いがと思って居ます処の、昨日《きのう》私が処《とけ》えねえ……少し家へ来られねえだけれども、逢いてえッて来た様子が誠に案じられますから、それからまア何うかしてと思って居ましたけれども、太田へ参《めえ》ったことを聞きましたから、また此方《こちら》へでも来《き》めえか、ひょっとして軽躁な事がありはすめえかと心配《しんぺえ》して、栄町へ参《めえ》りましたら栄町《あちら》の世帯《しょてえ》は仕舞って、太田の方へ行ったてえから、気になってなんねえで、此方へ参りましたが、若《も》し茂之助が此処《こけ》え参りまして、どんなハア詰らねえことを言いかけても、あんた取合わずにまア柳に受けて居て下さると、荒《あれ》えことも為《し》めえから、打遣《うっちゃ》らかして居て下すって、其の時云った事が貴方のお気に障れば、其の時はどんなに胆《きも》がいれる事があっても、後《あと》でまた気の静まるときに意見をすれば聴入れてくれる人でござりますから、何うか若し参りましたらば、何卒《どうぞ》あんた逆らわずに柳に受けてお置き下さるようにお願《ねげ》え申してえもので」
瀧「はい、そうで御座いますか、困りますねえどうも、まア貴方《あんた》には初めてお目にかゝりましたが、茂之助さんは前橋の六斎の市のたんびにお出でなすったが、お前さんという立派なお内儀《かみさん》や子供のある事は存じません、当人も隠して女房はないから斯うもしてやると仰しゃって下さるから、頼り少い身体で、そんならばと云って来て見ると、子供|衆《しゅ》もあり、お内儀さんも在《あ》って、手前《てめえ》は家《うち》に置かれないからと栄町へ裏店《うらだな》同様な所《とこ》へ世帯《しょたい》を持たして、何だか雇い婆《ばゞあ》とも妾ともつかぬ様な仕合《しあわせ》で、私も詰らねえから、何しろ身を固めるには夫を持たなければ心細いからと思いまして、それで浮気をしたてえ訳じゃアありませんが、今の松さんが前橋へ来なすったが、私も東京《とうけい》に居た時分か
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