又|勤惰《きんだ》によって定め置くものでござります。勉強次第で主人の方でも給金を増すと云う、兎に角|宅《うち》へ置いて其の者の腕前を見定めてから給料の約束を致します。又一つの年季と申しますると、一年も三年も或《あるい》は七年も八年もございますが、何十円と定めまして、其の内|前金《ぜんきん》を遣《や》ります。皆手金の前借が有ります。それで夏冬の仕着《しきせ》を雇主《やといぬし》より与える物でございます。これは機織女を雇入れます時に、主人方へ雇人請状《やといにんうけじょう》を出しますので、若い方が機に光沢《つや》が有ってよいと云うので、十四五か十七八あたりの処が中々上手に織りますもので、六百三十五|匁《もんめ》、ちっと木綿にきぬ糸が這入りまして七十寸位だと申します。其の中《うち》で二崩しなどと云う細かい縞《しま》は、余程手間が掛ります。一機《ひとはた》四反半掛に致しましても、これを織り上げて一円の賃を取りまするのは、中々容易な事ではございません。機織場の後《うしろ》に明りとりの窓が開いて居ります。足利|辺《あたり》では大概これを東に開けますから、何故かと聞きましたら、夏は東から這入りまするは冷風だと云います。依《よ》って東へ窓を開け、之をざま[#「ざま」に傍点]と云います。夏季《なつ》蚊燻《かいぶし》を致します。此の蚊燻の事を、彼地《あちら》ではくすべ[#「くすべ」に傍点]と申します。雨が降ったり暗かったりすると、誠に織り辛いと申しますが、何か唄をうたわなければ退屈致します処から、機織唄がございます。大きな声を出して見えもなく皆《みんな》唄って居ります様子は見て居りますると中々面白いもので、「機が織りたや織神さまと、何卒《どうぞ》日機《ひばた》の織れるよに」と云う唄が有ります。また小倉織《おぐらおり》と云う織方《おりかた》の唄は少し違って居ります。「可愛い男に新田山通《にたやまがよ》い小倉峠が淋しかろ」、これは新田山と桐生《きりゅう》の間に小倉峠と云う処がございます。是は桐生の人に聞きましたが、囃《はやし》がございますが、少し字詰りに云わなければ云えません、「桐生で名高き入山書上《いりやまかきあげ》の番頭さんの女房に成って見たいと丑《うし》の時参りをして見たけれども未だに添われぬ」トン/\パタ/\と遣るのですが、まことに妙な唄で。偖《さて》、足利の町から三十一町、行道山
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