》を致しましょう…先刻《さっき》の酒を、その柄樽を文七」
 文「ヘエお肴《さかな》が」
 主人「イエサもう来ているだろう」
 と云いながら腰障子を開けると、其の頃の事ゆえ、四ツ手駕籠で、刺青《ほりもの》だらけの舁夫《かごや》が三枚で飛ばして参り、路地口へ駕籠を下《おろ》し、あおりを揚げると中から出たのはお久で、昨日《きのう》に変る今日《きょう》の出立《いでた》ち、立派になって駕籠の中より出ながら、
 久「お父《とっ》さん帰って来たよ」
 長「ムーンお久……どうして来た」
 久「あの此処《こゝ》にいらっしゃる鼈甲屋の旦那様に請出《うけだ》されて帰って来たよ」
 兼「オヤお久、帰ったかえ」
 と云いながら起《た》つと、間が悪《わり》いからクルリと廻って屏風の裡《うち》へ隠れました。さて是から文七とお久を夫婦に致し、主人が暖簾を分けて、麹町《こうじまち》六丁目へ文七元結の店を開いたというお芽出度《めでた》いお話でございます。
(拠酒井昇造速記)[#行末から1字上で地付き]



底本:「圓朝全集 巻の一」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
   1963(昭和38)年6月10日発行
底本の親本:
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