くめえもんでも無《ね》え、手前《てめえ》はその為に留守居をしているんじゃアねえか、気を附けてくれなくっちゃア困るじゃアねえか」

        二

 かね「留守居をして居るったッて、斯《こ》んな貧乏世帯を張ってるから、使いに出す度《たび》一緒に附いては往かれませんよ、だが浮気をして情夫《おとこ》を連れて逃げるような娘《こ》じゃアありません、親に愛想《あいそう》が尽きて仕舞ったに違いないんだよ、十人並の器量を持ってゝ、世間では温順《おとな》しい親孝行者だといわれてるのに、お前が三年越し道楽《ばか》ばかり為《し》て借金だらけにしてしまい、家《うち》を仕舞うの夫婦別れをするのという事を聞けば、あの娘だって心配して、あゝ馬鹿/″\しい、何時《いつ》までも親のそばに喰附《くっつ》いてれば生涯うだつ[#「うだつ」に傍点]はあがらないから、何処《どこ》へか奉公でもするか、何《ど》んな亭主でも持つ方が、襤褸《ぼろ》を着てこんな真似をしてこんな親に附いて居ようより、一層《いっそ》の事|好《い》い処へ往って仕舞おうとお前に愛想《あいそ》が尽きて出たのに違いない、あの娘が居ればこそ永い間貧乏世帯を張って苦労をしながらこう遣《や》っていたが、お久が居ないくらいなら私は直《すぐ》に出て往っちまうよ」
 長「お久が居なけりゃア此方《こっち》も出て往っちまわアな、だからよう、己が悪《わり》いから連れて来て呉んな、父《ちゃん》が悪いッて是から辛抱するから、え、おい、お願《ねげ》えだ、己だってポカリと好《い》い目が出れば、又|取返《とりけえ》して、子供に着物の一枚《いちめえ》も着せてえと思って、ツイ追目《おいめ》に掛ったんだが、向後《きょうこう》もうふッつり賭博《ばくち》はしねえで、仕事を精出すから、何処《どこ》へか往ってお久をめっけて来てくんナ」
 かね「めっけて来いたっていないよ」
 長「いねえ/\と云ったって何処《どっ》か居る処《とけ》え往ってめっけて来やアな」
 かね「居る処《とこ》が知れてるくらいなら斯様《こん》なに心配はしやアしない、お戯《ふざ》けでないよ、私もお前のような人の傍《そば》には居られないよ」
 長「居られねえたって……えゝ、おい、お久を何《ど》うかして……」
 かね「何う探しても居ないんだ」
 長「居ねえって……え、おい」
 かね「お前の形《なり》は何《な》んだね、子供の着物なんぞを着てさ、見っともないじゃアないか」
 長「見っともねえったって、竹ン処《とこ》のみい坊の半纏《はんてん》を借りて来たんだ」
 かね「お尻がまるで出て居るよ、子供の半纒なぞを着て、好《い》い気になって戸外《おもて》をノソ/\歩いてゝさ」
 とグズ/\云って居ると、表の戸をトン/\叩き、
 男「御免ください」
 かね「はい只今開けます……誰か来たよ、お前隠れ場が……仕様がないねえ」
 男「どうか開けておくんなさい、御免なさいまし……えゝ誠に暫《しばら》く、何時《いつ》もお達者で」
 長「へえ…誰だっけ忘れちまった、何方《どなた》でしたかえ」
 男「エヽ私は角海老《かどえび》の藤助《とうすけ》でございます」
 と云われて長兵衞は手を打ち、
 長「おう、違《ちげ》えねえ、こりゃアどうも、すっかり忘れちまッた、カラどうも大御無沙汰になっちまって体裁《きまり》が悪いんでね、こんな処《とけ》え来てしまったんで、誠にどうもツイ…」
 藤「お内儀《かみ》さんが、一寸《ちょっと》長兵衞さんに御相談申したい事があるから、直《すぐ》に一緒に来るようにという事で」
 長「お前《めえ》さんの処《とこ》は余《あんま》り御無沙汰になって敷居が鴨居で往《い》かれねえから、何《いず》れ春永《はるなが》に往きます、暮《くれ》の内は少々へま[#「へま」に傍点]になってゝ往かれねえから何れ…」
 藤「兎や角《こ》う仰しゃるだろうが、直にお連れ申して来いと、お内儀さんが仰しゃるので」
 長「直にったって大騒ぎなんで、家内《うち》に少し取込《とりこみ》があるんで、年頃の一人娘のあまっちょが今朝出たっきり帰《けえ》らねえので、内の女房《やつ》も心配《しんぺえ》してえるんでね」
 藤「お宅《うち》の姉《ねえ》さんのお久さんは宅へ来ておいでなさいますよ、其の事に就《つ》いてお内儀さんが貴方《あなた》に御相談があるので」
 長「エヽ…お久がお前《めん》処《とこ》に往ってるとえ」
 かね「あらまア本当に有難う存じます、何処《どこ》へ参りましたかと存じて心配して居ましたが、御親切に有難う存じます…お前さん直《すぐ》に往って連れて来ておくれよ」
 長「じゃアまアなんだ……直に後《あと》から往きますからお内儀さんへ宜しく」
 藤「直に御同道しろと申しましたから」
 長「直にったって何《な》んですから、直《じき》に
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