》を致しましょう…先刻《さっき》の酒を、その柄樽を文七」
文「ヘエお肴《さかな》が」
主人「イエサもう来ているだろう」
と云いながら腰障子を開けると、其の頃の事ゆえ、四ツ手駕籠で、刺青《ほりもの》だらけの舁夫《かごや》が三枚で飛ばして参り、路地口へ駕籠を下《おろ》し、あおりを揚げると中から出たのはお久で、昨日《きのう》に変る今日《きょう》の出立《いでた》ち、立派になって駕籠の中より出ながら、
久「お父《とっ》さん帰って来たよ」
長「ムーンお久……どうして来た」
久「あの此処《こゝ》にいらっしゃる鼈甲屋の旦那様に請出《うけだ》されて帰って来たよ」
兼「オヤお久、帰ったかえ」
と云いながら起《た》つと、間が悪《わり》いからクルリと廻って屏風の裡《うち》へ隠れました。さて是から文七とお久を夫婦に致し、主人が暖簾を分けて、麹町《こうじまち》六丁目へ文七元結の店を開いたというお芽出度《めでた》いお話でございます。
(拠酒井昇造速記)[#行末から1字上で地付き]
底本:「圓朝全集 巻の一」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年6月10日発行
底本の親本:「圓朝全集巻の一」春陽堂
1925(大正15)年9月3日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号はそのまま用いました。
また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。
底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」は、それぞれ「其の」と「此の」に統一しました。
また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。
入力:小林 繁雄
校正:かとうかおり
2000年5月8日公開
2002年1月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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