からの騒ぎでございます。
兼「何《ど》うするんだよ、何処《どこ》へお金を遣ったんだよ」
長「何処へって遣っちまったよ」
兼「お金を預けた処《とこ》をお云いな」
長「預けたんじゃアねえよ、遣っちまったんだてえに、解らねえ、昨夜《ゆうべ》から終夜《よっぴて》責めてやアがって些《ちっ》とも寝られやアしねえ、己だって遣りたくはねえが、人が死ぬってえんだ、人の命に換《け》えられるけえ」
兼「ふん、人を助けるなんてえのは立派な大家《たいけ》の旦那様のする事だよ、娘が身を売ってお前の為に百両|拵《こしら》えてくれたものを、ムザ/\他人《ひと》に遣っちまうてえ奴があるかえ本当に、何処《どっ》かへ金を預けて置いて、又|賭博《ばくち》の資本《もとで》にしようと思って、本当に其の金はどうしたんだよ、何処へ遣ったんだよう」
長「己だって遣り度《た》くはねえ、余《あんま》り見兼たから助けたんだ」
兼「ふん、見兼て助ける風《ふう》かえ、足を掬《すく》って放り込むだろう」
長「誰が放り込む奴があるものか」
とグズ/\いつている処へ、
主人「ハイ御免下さいまし」
長「おゝ、無闇に開けちゃアいけねえよ……見っともねえ、そんな形《なり》をして、人が来たんだよ、己が挨拶をするまで其処《そこ》に隠れていねえ」
兼「見っともないたッて誰が斯《こ》んな形に仕たんだよ」
長「えゝ大きな声をするな、見っともねえから二枚折《にめえおり》の屏風《びょうぶ》の後《うしろ》へ引込んでな、え、もう開けても宜《よ》うがす」
主人「御免下さいまし、長兵衞さんと仰しゃる棟梁さんのお宅《たく》は此方《こちら》で」
長「えゝ何《な》に棟梁でも何んでもねえんで、ヘヽヽ縮屋《ちゞみや》さんかえ」
主人「イエ私《わたくし》は白銀町三丁目|近江屋卯兵衞《おうみやうへえ》と申しまして鼈甲渡世を致すもので、此者《これ》をお見覚えがございますか……何《ど》うかよく此の奉公人の顔を御覧なすって……文七|此方《こちら》へ出て此のお方のお顔を見な」
文「ヘエ/\、此のお方……アヽ、此のお方でございます、昨晩は誠に有難う存じます………旦那様此のお方が私《わたくし》を助けて下すったに違いないので」
長「おゝ此の人だ、お前《めえ》だ、何うもまア宜《よ》かった、お前に金を遣ったに違《ちげ》えねえね……賭博《ばくち》の資本《も
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