つたつけ、うむ、お赤飯《せきはん》か。真「えゝ成程《なるほど》、夫《それ》ぢやア先刻《さつき》お前《まへ》さん所《ところ》へお赤飯《せきはん》を上《あ》げた其《そ》の礼《れい》に来《き》なすつたのかね。甚「ヘイ能《よ》く知つて居《ゐ》ますね、横着者《わうちやくもの》。真「ナニ横着《わうちやく》な事があるものか、イエ彼《あれ》はほんの心ばかりの祝《いはひ》なんで、如何《いか》にも珍《めづらし》い物を旧主人《きゆうしゆじん》から貰《もら》ひましたんでね、実《じつ》は御存知《ごぞんぢ》の通《とほ》り、僕《ぼく》は蘭科《らんくわ》の方《はう》は不得手《ふえて》ぢやけれど、時勢《じせい》に追はれて止《や》むを得《え》ず、些《ちつ》とばかり西洋医《せいやうい》の真似事《まねごと》もいたしますが、矢張《やはり》大殿《おほとの》や御隠居様杯《ごいんきよさまなど》は、水薬《みづぐすり》が厭《いや》だと仰《おつ》しやるから、已前《まへ》の煎薬《せんやく》を上《あ》げるので、相変《あひかは》らずお出入《でいり》を致《いた》して居《ゐ》る、処《ところ》が這囘《このたび》多分《たぶん》のお手当《てあて》に預《あづか》り、其上《そのうへ》珍《めづ》らかなる熊《くま》の皮を頂戴《ちやうだい》しましたよ、敷皮《しきがは》を。甚「へえーアノ何《なん》ですか、蟇《ひきがへる》を。真「蟇《ひきがへる》ぢやアない、敷皮《しきがは》です、彼所《あれ》に敷《し》いてあるから御覧《ごらん》なさい。甚「へえー成程《なるほど》大きな皮だ、熊の毛てえものは黒いと思つたら是《こ》りア赤《あか》うがすね。真「いま山中《さんちゆう》に接《す》む熊とは違つて、北海道産《ほつかいだうさん》で、何《ど》うしても多く魚類《ぎよるゐ》を食《しよく》するから、毛が赤いて。甚「へえー、緋縅《ひをどし》の鎧《よろひ》でも喰《く》ひますか。真「鎧《よろひ》ぢやアない、魚類《ぎよるゐ》、さかなだ。甚「へえー成程《なるほど》、此処《こゝ》に弾丸《てつぱうだま》の穴か何《なに》かありますね。真「左様《さやう》さ、鉄砲傷《てつぱうきず》のやうだね。甚「何《ど》うも大変《たいへん》に毛が長《なが》うがすな。真「うむ、牛熊《うしぐま》の毛はチヤリ/\して長いて。甚「ア想出《おもひだ》した、女房《にようばう》も宜《よろ》しく。



底本:「明治の文学 
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