《どころ》じゃア無い何うでも宜しいから早く」
 と是れから裾《すそ》を端折《はしょ》って飛出したが、此方《こちら》は余程《よっぽど》刻限が遅れて居ります。お話は元へ戻りまして、お繼が親の敵と切りかけました時は水司又市も驚いて、一間ばかり飛退《とびしさ》って長いのを引抜き、
又「狼藉者[#「狼藉者」は底本では「狼籍者」]め」
 と云うと往来の者はどやどや後《あと》へ逃げる、商人家《あきんどや》ではどか/\ッと奥に居たものが店の鼻ッ先へは駈出して見たが、少し怖いから事に依ったら再び奥へ遁込《にげこ》もうと云うので、丁度臆病な犬が魚を狙うようにして見ている。四辺《あたり》は粛然《しん》として水を撒いたよう。お繼は鉄切声《かなきりごえ》、親の敵と呼んで振冠《ふりかぶ》ったなり、面体《めんてい》も唇の色も変って来る。然《そ》うなると女でも男でも変りは無いもので、
繼「私を見忘れはすまい、藤屋七兵衞の娘お繼だ、汝《てまえ》は永禪和尚で、今は櫻川又市と云おうがな」
 と云う其の声がぴんと響く。その時に少し後《あと》へ下《さが》って又市が、
又「何だ覚えはないわ、左様な者でない」
 とは云っても覚えが
前へ 次へ
全303ページ中289ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング