ります、此方へお這入りなさい」
山「はい、あなたは何でございますか、額に疵がございますか」
太「何だ……左様でござる、手前は額に疵も有りますが、何方でげすえ」
山「えゝ、元は榊原様の御家来で、お年は四十一でいらっしゃいますか」
太「なんだ……はい私《わし》の年まで知っていて、面部《おもて》に疵が有ると仰しゃるのは何方《どちら》のお方でございますえ」
山「お名前は水司又市でございますか」
太「はい何方《どなた》だえ」
と水司又市と云う名を聞くや否や山之助は一刀を抜くより早く、がらり障子を明けながら、
山「姉の敵い…」
と一声《ひとこえ》一生懸命の声を出して無茶苦茶に切込んで来る。続いてお繼が、
繼「おのれ親の敵覚悟をしろ」
と鉄切声《かなきりごえ》を出した時には不意を打たれて驚きましたが、
太「これ何を致す、人違いをするな」
と云いながら傍《そば》に有りました今戸焼の蚊遣火鉢を取って打付《ぶッつ》けると、火鉢は山之助とお繼の肩の間をそれて向うの柱に当って砕け、灰は八方に散乱する。また山之助の突掛《つきか》ける所を引外《ひっぱず》して釣瓶形《つるべがた》の煙草盆を投付け、続いて湯呑
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