りまして落合を出立致して、大井《おおい》といふ処へ出ました。これから大久手《おおくて》細久手《ほそくて》へ掛り、御嶽《おんたけ》伏水《ふしみ》といふ処を通りまして、太田《おおた》の渡しを渡って、太田の宿の加納屋《かのうや》という木賃宿に泊ります。ちょうど落合から是れまでは十二里余の道でございますが、只今とは違って開《ひら》けぬ往来、その頃馬方が唄にも唄いましたのは木曾の桟橋《かけはし》太田の渡し、碓氷峠《うすいとうげ》が無けりゃア宜《よ》いと申す唄で、馬士《まご》などが綱を牽《ひ》きながら大声で唄いましたものでございます。さて時候は未だ秋の末でございますが、此の年の寒さも早く、殊に山国の習いで、ちらり/\と雪が降って参りまする。山之助お繼も致し方がございませんから無理にも出立致そうと思いまするが、だん/\と雪の上に雪が積りまして、山又山の九十九折《つゞらおり》の道が絶えまするから、心ならずも先《まず》此処《こゝ》に逗留致さんければ相成りません[#「相成りません」は底本では「相成りせん」]、なれども本来《もと/\》修行の身の上でございますから、雪も恐れずに立とうと思うと、山之助が慣れぬ旅
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