での事は水の泡に成るじゃアないか」
又「己が悪いから宥せ」
梅「宥せじゃアない、お前さんは何だね、あの娘《こ》がもし義理に引かされて、仕方なしにあいと云ったら、あの娘をなぐさんで、あの娘と訝《おか》しい中になると、私を見捨る気だね」
又「いゝや見捨てやアせんじゃア、そのような心ではない」
梅「おとぼけでない、嘘ばかり吐《つ》いて、越後の山口でお前の処へ這込んだ助倍《すけべい》比丘尼と云ったろう」
又「あゝ聞いて居たな、酔うた紛れだ……打《ぶ》つな、血が染《にじ》んで来た」
梅「私はお前さん故で斯様《こんな》に馴れない旅をして、峠を越したり、夜夜中《よるよなか》歩いて怖い思いをするのはお前さん故だよ、お前さんも元は榊原様の藩中で、水司又市と云う立派な侍では有りませんか、武士に二言はない、決して見捨てない、おれも今までの坊主とは違い、元の武士の了簡に成ったから見捨てないと云うから、亭主にしたけれども、お前さん何だろう、浮気をして私を見捨る人だと思うと心細くって、附いて居るも何だかどうも案じられて、見捨られたら何うしようと思うと、こんな山の中へ来てと考えると心細くなるよ」
又「見捨てやアせん
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