ど》は高橋を以《もっ》てする積りで、嫁入《よめいり》の衣裳や何かお前の好みもあろう、斯《こ》ういう物が欲しい、櫛《くし》簪《かんざし》は斯う云うのとか、立派なことは入らぬが、宜《よ》くお母様と相談して、其の上で先方へも申込むから宜いかえ」
照「はいお父様|私《わたくし》に養子を遊ばす事はもう少しお見合せなすって」
善「見合せる、其様《そん》な事はありません、何《なん》で見合せるのだえ」
照「はい私《わたくし》はまだあなた養子は早うございます、それに他人が這入りますと、お父様お母様に孝行も出来ません様になりますから、私も心配でございますから、何卒《どうぞ》もう四五年お待ち遊ばして」
善「そんな分らぬ事を云ってはいけません、早く養子をして初孫《ういまご》の顔を見せなければ成りません」
妻「ほんとうに養子をしてお前の身が定まれば、お父様も私も安心する、双方に安心させるのが孝行だよ……まことにあなた何時《いつ》までも子供のようでございます……あんな好《よ》い養子はございませんよ、家《うち》へいらっしゃってもあの凛々《りり》しいお方で、本当に此の上もないお前仕合せな事だよ」
善「さア、はいと返辞をすれば直《すぐ》に結納を取交せるから」
照「はい、私《わたくし》はあの池《いけ》の端《はた》の弁天様へ、養子を致す事を三年の間|願掛《がんが》けをして禁《た》ちました」
善「そんな分らぬ事を言っては困りますよ、弁天へ行って然《そ》う云って来い、願掛けは致したが、親の勧めだからお願《がん》を破ると云って来い、それで罰《ばち》を当てれば至極分らぬ弁天と申すものだ、そんな分らぬ弁天なら罰の当てようも知るまいから心配はありませんよ、これ何時まで子供の様な事を云って何うなります、私が約束して今更|変替《へんがえ》は出来ません、直様《すぐさま》返事をおしなさい、これ照、困りますなア」
六
妻「貴方、そう御立腹で仰しゃってもいけません……何時までもお前子供の様で、養子をすると云うものは怖いように思うものだけれど、私も当家へ縁付いた時は、こんな不器量な顔で恥かしい事だと否々《いや/\》ながら来ましたが、また亭主となれば夫婦の愛情は別で、お父様お母様にも云われない事も相談が出来て、結句頼もしいものだよ、あいとお云いよ/\、泣くのかえ」
善「なに泣くとは何事、泣くという事はありません、何だ」
妻「まア其様《そんな》にお怒《おこ》り遊ばすな」
と無理に手を取って娘の居間へ連れて行《ゆ》き、種々《いろ/\》言含めたが唯《たゞ》泣いて計《ばか》り居て返答を致しませんのは、屋敷|内《うち》の下役に白島山平《しろしまさんぺい》という二十六歳になります美男と疾《と》うから夫婦約束をして居りました。遠くして近きは恋の道でございます。逢引する処が別にございませんから、旧来|家《うち》に奉公を致して居りましたおきんと云う女中が、上野町《うえのまち》に団子屋をして居るので、此の家《うち》の二階で山平と出会いますので、是が心配でございますから、おきんの所へ手紙を出しますと、此方《こちら》はおきんが山平を呼出しまして、二階で三鉄輪《みつがなわ》で話をして居ります。
きん「どうも先達《せんだって》は有難うございます、貴方、あんな心配をなすっては困りますよ、お忙がしい処をお呼立て申しましたのは困った事が出来ましてね」
山「毎度厄介になりまして気の毒でのう、今日は急に人だから何事かと思って来たのだが、どう云うわけだえ」
きん「どう云うたって実に困りますよ、何うしたら宜《よ》かろうと存じまして、お照さまに御両親様から急に御養子を遊ばせと仰しゃるので、嬢様は否《いや》だと云って弁天様へ禁《た》ったと仰しゃったそうでござりますが、お父様が聴かぬので、一旦約束したから変替《へんがえ》は出来ぬと云うので、仕方がないから私《わたくし》は養子をする気はない、どんな事が有っても自分が約束したからは何処迄《どこまで》も強情を張る積りだが、お父様が腹を切るの何《なん》のと云うから、寧《いっ》そ身を投げて死んでしまおうと、小さいお子様の様な事を仰しゃるので困りますよ、何か云えば直《すぐ》に自害をするのなどと詰らん事を云うので困ります、私《わたくし》は思案に余りますから貴方をお呼び申したので」
山「ふう成程、そうして何方《どちら》から御養子を」
きん「お嬢様の仰しゃるには、白島様には云わぬ方が宜《よ》いと仰しゃいますが、あの武田重二郎様ね、それあの厭《いや》な気の詰るお方で、私も御奉公して居るうち見ましたが、偏屈な嫌《いや》に堅苦《かたっくる》しいね嫌な人で、実に困った訳でございますけれども、否《いや》と言切る訳にも往《ゆ》きませんから誠に心配していらっしゃいます」
山「お照さん……この山平は江
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