を紅葉の枝へ附けてお通んなはいましたねえ、滝の川へ入《いら》っしゃったの、御様子の好《い》いことゝ云ってお噂をして居たのですよ」
又「左様か、お前は当家の家内かな」
婆「おや厭ですよ、私は二階を廻す者です」
又「なに二階を廻す、この二階を」
婆「あれさ力持じゃアございません、本当に小増さんをお名指《なざし》は苛《ひど》いじゃアございませんか」
又「何が苛い、買いたいと思ったから登《あが》ったわ」
婆「本当に外で見染めて揚るのは一ばん縁が深いと申します、本当にお堅過ぎますよ、お袴をお取りなさいよ」
 と云ううちに小増が出て参りまして、引付《ひきつけ》も済んで台の物が這入《はい》りますから、一猪口《いっちょこ》遣《や》って座敷も引け、床になりましたが、素《もと》より田舎侍でありますから、小増は宵に顔を見せたばかりで振られました。

        二

 翌朝《よくあさ》門切《もんぎれ》にならんうちにと支度を致しまして、
又「これ/\婆ア/\」
婆「厭だよ婆アなんてさ」
 と云いながら屏風を開けて、
婆「お呼びなはいましたか」
又「いや昨夜《ゆうべ》な些《ちっ》とも小増は来《こ》ぬて」
婆「誠にねどうも、流行《はやり》っ妓《こ》ですから生憎《あいにく》お馴染が落合ってさ、斯《こ》う折の悪い時は仕様がないもので、立込んでね」
又「左様かね、予《かね》て聞くが、初会は座敷切りと聞くが全く左様か」
婆「まアね然《そ》う云った様なもので有りますから」
 吉原の上等の娼妓ならお座敷切りという事も有りましたが、岡場所では左様なことは有りませんが、そこが国育ちで知りませんから、成程そうかと又四五日置いて来ましたが、また振られ、又二三日置いて来たが振って/\振抜かれるが、惚《ほれ》るというものは妙なもので、小増が煙草を一ぷく吸付けてお呑みなはいと云ったり、また帰りがけに脊中《せなか》をぽんと叩いて、
小増「誠に済まねえのだよ、今度|屹度《きっと》来ておくんなはい」
 と云われるのが嬉しく思いまして、しげ/\通いましたが、又市も馬鹿でない男でございますから、終《しまい》には癇癪を発《おこ》して、藤助《とうすけ》という若者《わかいもの》を呼んで居ります。
婆「藤助どん行っておくれ、小増さんも時々顔でも見せて遣《や》れば好《い》いのに、酷《ひど》く厭がるから困るよ」
又「これ/\袴を出せ」

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