いで」
婆「何うした、毎度来てえ/\と思っても忙しくて来《き》られねえで、汝《われ》が顔を見てえと思って来たが、なにかお繼は達者か、なにか店へも出ねえが疱瘡《ほうそう》したか、然《そ》うだってえ話い聞いた、それ汝《われ》がに柿を持って来た、はア喰え」
正「柿、有難う、田舎のお婆さんが柿を持って来てくれると宜《い》いって然ういって居たが、お父《とっ》さんが、あのまだ青いから最《も》う少したって、お月見時分には赤くなるからってそう云ったよ」
婆「何だか知らねえがお母《っかア》が異《ちが》って何うせ旨くは治《おさま》るめえ、汝《われ》が憎まれ口でも叩いて、何うせな家《うち》もうなや[#「うなや」に傍点][#欄外に校注:おだやか○平穏○]にゃア往《い》くめえと文吉《ぶんきち》も心配して居るが、何うも仕方がねえ、早く女親に別れる汝だから、何うせ運は好《よ》くねえと思って居るが、何でも逆らわずにはい/\と云って居ろよ」
十三
正「はい/\て云って居るの、あのねえお手習に往《い》くのも六つの六月から往くと宜《い》いて云ったけれども早いからてね、七つの七月から往く様になったから、先《せん》にはお弁当なんぞも届けて呉れるのだが、今度のお母《っか》さんが来てからは然《そ》う往かないの、お父さんが何処《どこ》かへ行ってもお土産に絵だの玩具《おもちゃ》だの買って来たが、此の頃は買って来ないでお母さんの物|計《ばか》り簪《かんざし》だの櫛《くし》だのを買って来て、坊には何にも買って来てくれないよ」
婆「汝《われ》のような可愛い子があっても子に構わず後妻《のちぞい》を持ちてえて、おすみの三回忌も経たねえうち、女房を持ったあから、汝よりは女郎《じょうろ》の方が可愛いわ……虐《いじ》めるか」
正「怖ろしく虐めるの、縁側から突飛《つきとば》したり…こんなに疵《きず》が有るよ、あのね裁縫《しごと》が出来ないに出来る振をして、お父さんが帰ると広げて出来る振をして居るの、お父さんが出て行《ゆ》くと、突然《いきなり》片付けて豌豆《えんどうまめ》が好きで、湯呑へ入れて店の若衆《わかいし》に隠して食べて居るから、お母さんお呉れって云ったら、遣《や》らないと云ってね、広がって居るから縫物《しごと》を踏んだら突飛して此処《こゝ》を打って、顋《あご》へ疵が出来たの」
婆「呆れた、大《でか》い疵があ
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