此の水島太一という姓名を附けなければ斯の様な間違いも有るまい、是も皆若い時分からの罪で斯う成るのであろう、あゝあ恐るべき事である、これ忰手前なア何うかして助けたいが、実は迚《とて》も助からぬ事と存じて居ろうが、後々《あと/\》の事には心を残さず往生致せ、縁有って手前の家内に成って居《い》るお繼という此の娘は私が引取って剣術を仕込み、手前の為には姉の敵に当る水司又市を捜して屹度《きっと》敵を討たせるから、心を残さず往生致せよ」
山「はい/\/\有難う/\、逢いたい/\と思うお父様《とっさま》にお目に懸り、お父様のお手に懸って死にますれば何も心を残す事はございません、これお繼少しの間でも御厄介になった伯父さんやお婆さんに何卒《どうぞ》宜しくお前云ってお呉れよ」
繼「はい山之助さん確《しっ》かりして下さいよ、お前さんが死ねば私は此の世に生きて居《お》られません」
 と山之助に取縋《とりすが》って泣きまするから、堪《こら》え兼《かね》てお照も泣伏します。水島太一も膝の上に手を置くと、はら/\/\と膝へ涙が落ちる。すると台所の方から大きな声で
「御免なせえまし」

        五十八

太「何だえ」
文「へえ/\真平御免を蒙ります」
太「何うも恟《びっく》りする、誰だえ」
文「私《わし》は此処《こゝ》にいるお繼の実の伯父で百姓文吉と申します、私は今日|他処《よそ》へ行って先刻《さっき》家《うち》へ帰ると、敵討に行ったと云いますから、家の男を連れて駈けて参《めえ》りましたが様子が知んない、其処《そこ》らで聞くと此家《こゝ》だと云うから、済まぬようだが窃《そ》っと這入って、裏へ廻って様子を聞いて居りますと、人違いだ/\と云う声がするから、はてと思って聞いて居りましたが、間違いとは云いながら、少《ちい》さい時分に別れたお前様の子、それを貴方《あんた》が知らないとは云いながらはア斬って殺すと云うは、若い時分の罪だと懺悔《ざんげ》する其の心持《こゝろもち》を考えますと、我慢しようと思いましたがつい泣いたでがんす、何うも飛んだ間違いに成りました、これ嘉十、もう鎌なんざアぶっ放《ぽ》ってしまえ」
太「何うもお恥かしい事がお耳に入って面目次第もございません」
文「何うか助かり様が有りましょうか」
太「迚《とて》も助かりますまいとは存じますが、此の辺に生憎《あいにく》療治を致す者もござらぬ
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