と追掛けて来たのは、勇治《ゆうじ》という胡麻の灰。
勇「おい/\巡礼々々」
山「あい」
勇「己は汝《てめえ》と須原で合宿《あいやど》になり、宮之越でも合宿に成った者だ」
山「左様でがすか」
勇「左様でがすかじゃアねえ、これ道中をするには男の姿でなけりゃア成らぬと云うので、そういう姿に成ってるが、汝は女だな」
山「いゝえ私は男でげす」
勇「隠したってもいけねえや、修行者でも商人《あきんど》でも宜く巡礼の姿に成って来ることが有るが、汝は手入らずの処女《きむすめ》に違《ちげ》えねえ、口の利き様《よう》から外輪《そとわ》に歩く処は、何う見ても男のようだが、無理に男の姿に成って居ても乳が大きいから仕方がねえ」
山「何を仰しゃるのだえ、私はそんな者ではございません、全く男でござります」
勇「いけねえ、何でも女に違えねえ、今夜己が落合へ連れて行って一緒に□□□□ようと思って来たんだ」
山「冗談を云っちゃアいけません」
勇「冗談じゃアねえ、汝を宿屋へ連れて行ってから、きゃアぱア云われちゃア面倒くさいから、こゝで己の云う事を聴いたら、得心の上で宿屋へ泊って可愛がって遣るのだ、ぐずッかすると宿場へ遣って永く苦しませるぞ、さア此処はもう誰も通りゃアしねえ、その横へ這入ると観音堂が有って堂の縁が広いから」
山「冗談しちゃアいけません、私は其様《そん》な者じゃアございません」
勇「そんな事を云っちゃアいけないよ、お前が宿に泊って湯に這入る時に大騒ぎをするから、肌襦袢に縫付けて金を持ってる事もちゃんと承知だ」
山「何をなさる」
勇「何をと云って何うせ此方《こっち》は盗みが商売だから」
山「無闇な事をなさるな」
勇「無闇が何うする、斯うだぞ」
山「何うもいけません、何をなさるのだ」
 と山之助が勇治の頬片《ほゝぺた》をぽんと打ちました。処が山之助は白島村に居る時分に、牛を牽《ひ》いたり麁朶《そだ》を担《かつ》いだりして中々力のある者、その力のある手で横っ面を打たれたから、こりゃア女でも中々力がある、滅法に力のある女だと思って、
勇「何をする、汝がきゃアぱア云やア拠《よんどこ》ろなく叩き斬るぞ」
 本当に斬る気では有りませんが、嚇《おど》して抱いて寝る積りで、胡麻の灰の勇治がすらり抜くと山之助も脊負《しょ》っている苞《つと》から脇差を出そうかと思ったが、いや/\怪我でもしてはならぬ大事の身体と考え
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