傳次さん此間はお草々《そう/\》でしたと云えば宜《い》い、然《そ》うすれば私《わっち》が行ったてえのが通じるのだから、彼処《あそこ》へ往って一寸私に挨拶するだけ」
やま「いけませんよ」
傳「いけねえてえ私《わっち》が困るから、野暮《やぼ》なことを云わずにお出でなさい」
と無理に引摺《ひきず》り込んだから仕方なしにひょろ/\蹌《よろ》けながら上《あが》り口《ぐち》へ手を突くと、臀《しり》を持って押しますから、厭々上って来ると、柳田典藏は嬉しいが満ちてはっと赤くなり、お世辞を云うも間が悪かったか反身《そりみ》になって、無闇に扇で額を叩き、口も利かずに扇を振り廻したりして、きょと/\して変な塩梅《あんばい》で有りますから、
傳「旦那、旦那お連れ申しました、此方《こちら》へ/\、ぐず/\して居てはいけねえ、姉《ねえ》さんに御挨拶をさ」
典「これは何うも誠に、何か、御信心参りにお出での処《ところ》を斯様なる処へお呼立て申して甚だ御迷惑の次第で有ろうと申した処が、何か、御迷惑でも御酒を飲《あが》らぬなれば御膳でも上げたいと思って、一寸これへ、何うも恐入ります、一寸只御酒はいけますまいから、じゃア御膳を」
と云うのを傳次は聞いて、
傳「いけねえね、そんな事ばかり云って困るな、めかして居て……一寸姉さんお盃を、お酌を致しますから」
やま「何をなさる、お前さん方は何をなさるのでございますえ、私《わたくし》の様な馬鹿でございますけれども、あなた方は何もお近眤《ちかづき》になった事もない方が無理遣《むりやり》にこんな処へ手を持って、厭がる者を引張込んで、人の用の妨げをして、酒を飲めなんて、私《わたくし》は酒のお相手をする様な宿屋や料理茶屋の女とは違います、余り人を馬鹿にした事をなさいますな」
傳「旦那、腹を立っちゃアいけねえ……姉さん然《そ》う云っちゃアから何うも仕様がねえ、それは然うだがね姉さん人の云う事をお聞きなさいよ、この旦那は早く言えばお前さんに惚れたんだ……旦那、黙って其方《そっち》においでなせえ、お前さん口を出しちゃアいけねえ、黙って頭を叩いておいでなさい…姉さん、人の云う事をお聞きよ、此間《こないだ》伯父さんへ掛合ったのだ、宜《い》いかえ、処がそれはお父《とっ》さんが居ねえので元服もせずに待って居ると云うお話だから、その事を柳田さんに話すと、それは御尤《ごもっとも》だて
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